野生のイノシシやイタチが畑を荒らしたり、農作物を食べることによって、農家が困っているというニュースや新聞を目にしたことがある方も多いと思います。
実際、農林水産省の発表を確認すると、野生鳥獣による農作物被害は、令和2年度で約161億にのぼっており非常に甚大です。
しかし、有害鳥獣によって受けている被害は、数字に出ている面だけではありません。
例えば、有害鳥獣による被害によって、時間や労力をかけて作った農作物が収穫できずに収入に繋がらないことから、営農意欲の減退、就農人口の減少に繋がっています。
もちろん、有害鳥獣による被害は国や自治体も問題視しており、各自治体で鳥獣被害減少への取り組み強化、国による法整備、補助金の制定も行われていますが、解決していないのが現状です。
そこで、本記事では鳥獣被害の現状や被害額、鳥獣被害の原因、鳥獣被害の対策について分かりやすく解説していきます。
この記事のまとめ
・令和2年度の鳥獣による農作物被害額は約161億円
・鳥獣被害の原因の一つが狩猟者の高齢化に伴う担い手の減少
・耕作放棄地も鳥獣にとって餌場を提供する生息適地となっており、被害拡大の原因の一つ
・鳥獣被害の対策として国からの法整備や補助金支援がされている
・長野県のように地方自治体で鳥獣被害に対する取組強化を行い効果が出ている地域もある
・根本的解決には民間の方の協力が必要不可欠
有害鳥獣による被害に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
鳥獣被害の現状について
効果的な鳥獣被害対策を行うためには、まずは被害の現状や状況を正しく把握することが重要になります。
例えば、被害額やその内訳などです。
鳥獣被害による現状を知ることで、鳥獣被害の認識が深まり、何をすべきかを明確化することができます。
被害額はどれくらい?
農林水産省の発表によると、令和2年度の鳥獣による農作物被害は被害金額約161億円で、前年度に比べて約3億円増加(対前年2%増)、影響は拡大傾向にあります。
詳細には、被害面積は約4万3千haで前年度に比べ約5千ha減少(対前年10%減)している一方で、被害量は約45万9千tで前年に比べ約2千t増加(対前年0.4%増)している状況です。
主な鳥獣種別の被害金額
主な鳥獣種別の被害金額については、シカが約56億円で前年度に比べ約3億円増加(対前年6%増)しており、イノシシが約46億円で前年度に比べ約0.7億円減少(対前年1%減)しています。
続いて、クマが約5億円で前年度に比べ約0.6億円増加(対前年14%増)、ヒヨドリが約4億円で前年度に比べ約2億円減少(対前年35%減)と、鳥獣の種類によって被害額が大きく異なる状況です。
また、地域によっても、生息する鳥獣の種類も大きく異なります。
したがって、地域毎に どの鳥獣被害が多いのかを確認したうえで、有効な対策を立てることが重要です。
農作物への被害について
農作物への被害について、農作物の種類ごとに被害状況を説明します。
鳥獣による令和2年度の農作物被害金額約161億円の内、野菜やイネ、果樹の3分類で被害金額の約60%を締めているのが現状です。
被害金額が大きい農作物は以下となります。
区分 |
被害金額(万円) |
野菜 |
383,080 |
イネ |
374,790 |
果樹 |
346,038 |
飼料作物 |
263,739 |
いも類 |
81,529 |
工芸作物 |
52,128 |
マメ類 |
51,315 |
ムギ類 |
31,365 |
雑穀 |
14,293 |
その他 |
12,632 |
合計 |
1,610,908 |
出典:農林水産省 野生鳥獣による農作物被害状況(令和2年度)
上記で被害額が多い作物を育てている方は、何かしらの対策を立てる必要があります。
市街地や住宅地への被害も出ている
鳥獣による被害は畑の農作物だけに留まりません。
市街地の道路内や住宅地へ出没し、人々を困惑させています。
また、鉄道会社や道路公団も他人事ではありません。
里山から来た野生のシカやイノシシが、市街地を走る道路や線路内に立ち入り、車や電車と衝突することで事故の発生やダイヤの乱れを発生させています。
さらに、シカはともかく、イノシシは人的被害が出る可能性があることも問題です。
基本的には警戒心が強いため人間を避けますが、刺激されると人を襲ったり、突進してきたりする可能性があります。
過去には捕獲しようとしたイノシシに跳ね飛ばされて大怪我をした事例や、指を噛みちぎられた事例、股下に入ったオスイノシシの大きな牙で太ももの動脈を裂かれて失血死した事例も。
仮に、イノシシに遭遇した場合は、むやみに近づかず逃げるようにしましょう。
鳥獣被害の原因について
鳥獣被害に対しての対策は年々強化しているものの、鳥獣被害の減少には中々繋がっていないのが現状です。
鳥獣被害が減少しない主な原因として、高齢化による狩猟者の減少、過疎化などによる耕作放棄地の増加などが挙げられます。
ここでは、これらの鳥獣被害の原因について詳しく解説していきますので、正しく理解するようにしてください。
鳥獣被害の原因を正しく理解することで、鳥獣被害対策を考えるのに役立ちます。
狩猟者の減少
鳥獣被害が減少しない第一の理由は、狩猟者の高齢化に伴う担い手の減少にあります。
環境省の調べによると、鳥獣の狩猟者は1975年には51.8万人いましたが、2017年には21万人と半減しているのが実態です。
ベテラン狩猟者が高齢化に伴い引退される一方で、新規のなり手がいないためです。
実際、全国における狩猟免許取得者の内、約6割は60歳を超えています。
この問題の根本的解決のためには、若者に狩猟の魅力を伝えていくとともに、ジビエの需要を増やしていくことが重要です。
弊社でもジビエ事業を応援すべく、DMM Agri Innovationと業務提携。
DMMパッケージと銘打って、サービスを提供しております。
詳細については、以下の記事を参考にしてください。
耕作放棄地の増加
耕作放棄地とは、以前は耕作地だったが1年以上手つかずで放置され、作物も栽培されず、その後数年も耕作するつもりのない土地のことです。
近年増加傾向にあることも、鳥獣被害が拡大した原因の一つになります。
耕作放棄地が出来る要因は、農業就業者の7割を占める60歳以上の世代が⾼齢化等によりリタイア、さらに後継者不足により離農がおこり、耕作を放棄するケースが増えていることです。
農林水産省の調べでは、1990年は21.7万haだった耕作放棄地は、2015年には42.3万haと約2倍に増加しています。
このような背景によって増えた耕作放棄地は、やがて荒れた竹林、ススキ・ササなどの植物に覆われた土地となり、シカやイノシシにとって餌場・隠れ場所を提供する生息適地となります。
そして、鳥獣被害を深刻化させる要因の一つとなっているのです。
鳥獣の生息域の拡大
地球温暖化等による鳥獣の生息域の拡大も、鳥獣による被害を拡大させている原因のひとつです。
シカを例にとって説明すると、シカはそもそも寿命が長いうえに、1歳以降のほとんどのメスが毎年1頭の子を産むため、繁殖力が非常に高いと言われています。
また、餌となる植物の種類は非常に多く、一部の植物を除いて、ほとんどすべての植物を食べることも特徴です。
このように逞しい生態のシカが、地球温暖化による積雪量・積雪期間の減少によって、多雪地として知られる尾瀬や南アルプスの3,000m級の山々にまで分布を広げつつあります。
弊社が位置する北陸地方にもその影響は出ており、すでに石川県の加賀にまで、生息域を広げている状況です。
注目が集まる鳥獣被害の対策
国や自治体も鳥獣による被害は深刻に捉えており、法整備や交付金などの対策を行うことで、鳥獣被害を食い止めようとしています。
確かに、これらの国や自治体の対策は非常に有効です。
しかし、国や自治体の対策だけでは食い止めるのが難しく、被害は増加しているのが現状です。
では、被害を食い止めるのにはどうすればいいのでしょうか?
国や自治体の対策を理解しながら、市民が協力しながら対策を立てていくのが重要です。
ここでは、国や自治体が行なっている対策を解説するとともに、民間でどういった対策が打てるのか紹介していきましょう。
法整備(鳥獣被害防止特別措置法)による対策
鳥獣被害防止のための施策を総合的に推進し、農林水産業の発展・農山漁村地域の振興に寄与することを目的として制定されたのが「鳥獣被害防止特措法」です。
「鳥獣被害防止特措法」が制定されたことで、現場に最も近い行政機関である市町村を農林水産業被害対策の中心として主体的に対策に取り組めるようになり、地域の実情に即した対策が可能となったことで、より効果的な被害防止が図れるようになりました。
具体的な支援措置としては、被害防止施策を実施する際に必要な経費についての特別交付税の拡充や、人材確保に繋げるための狩猟税の軽減等の措置などが挙げられます。
出典:鳥獣被害防止特措法
ちなみに、鳥獣駆除に関する法律については以下の記事で詳しく解説しています。
【必見!】鳥獣駆除に関する法律とその内容や許可取得について詳しく紹介
国からの支援(鳥獣被害防止総合対策交付金)による対策
鳥獣被害防止総合対策交付金として、令和4年度は100億300万円の予算概算が決定しています。
鳥獣被害防止総合対策交付金は鳥獣被害に対して侵入防止柵、捕獲技術高度化施設等の整備や都道府県が行う広域捕獲に係る調査、人材育成等の支援やジビエ利活用の取組などを支援する内容です。
農作物被害を及ぼすシカ、イノシシの生息頭数を、令和5年までに平成23年度から半減させる事や、野生鳥獣のジビエ利用量を令和7年までに令和元年度から倍増させることを目標として取り組みが進められています。
ちなみに、弊社が鳥獣被害を抑え、またジビエ利用を推進しようと、販売している炭化装置や柵・罠・檻なども、鳥獣被害防止総合対策交付金の対象です。
詳しくは、下記記事をご覧ください。
炭化炉・炭化装置を活用する際の補助金は何がある?活用事例も併せて紹介
地域での取組強化による対策〜長野県の取組事例〜
長野県では関係部局が連携し、鳥獣被害に対して総合的・効果的な対策を推進するために、平成19年11月21日に「野生鳥獣被害対策本部」を設置しました。
「野生鳥獣被害対策本部」の基本方針として、「野生鳥獣被害対策の低減に向けて、地域住民を含む多くの関係者の理解と連携のもとで、野生鳥獣被害対策を効果的に推進する」と掲げています。
この取組効果により、農林業被害額は平成22年度が14億9,126万円だったのに対して、令和2年は7億4,230万円と10年間で被害を半減させました。
このように、県単位で連携することにより、狩猟者育成などの捕獲対策、侵入防止柵の設置などの防除対策、鳥獣が出没しにくい環境づくりなどの生活環境対策が順調に進むことを証明してみせた良い事例です。
民間で進めていくべき取組み
国や自治体の取り組みは非常に有効で実際に効果も出ていますが、根本的な解決には民間の協力が必要不可欠だと弊社は考えています。
民間でもできる鳥獣被害対策としては、大きく以下の2つです。
・農家自身による罠や侵入防止柵の設置
・ジビエ処理施設の開設
弊社では上記を支援すべく、罠や侵入防止策の販売、誰でも簡単に始められる簡易ジビエ施設パッケージ(DMMパッケージ)の販売を行っております。
詳しくは以下の記事を参考にしてください。
まとめ
鳥獣による被害は拡大しており、深刻な問題になっています。
被害が拡大している原因は、「高齢化などによる狩猟者の減少」、「耕作放棄地の増加」などです。
当然、国は法整備や給付金の支援、自治体も取組強化を行っていますが、それだけでは十分な効果が得られていないのが現状になります。
そこで、本記事では、鳥獣被害の現状や被害額、鳥獣被害の原因、鳥獣被害の対策について分かりやすく解説してきました。
この記事で解説したポイントは以下です。
この記事で解説したポイント
・令和2年度の鳥獣による農作物被害額は約161億円
・鳥獣種別の被害金額については、シカ、イノシシが圧倒的に多い
・農作物被害金額の内、野菜やイネ、果樹の3分類で被害金額の約60%を締めている
・鳥獣による被害は市街地の道路内立ち入りや住宅地へ侵入で被害を拡大させるケースもある
・鳥獣被害の原因の一つが狩猟者の高齢化に伴う担い手の減少
・耕作放棄地は鳥獣にとって餌場を提供する生息適地となり被害拡大の原因となっている
・鳥獣被害の対策として国からの法整備や給付金の支援がある
・長野県のように地方自治体で鳥獣被害に対する取組強化を行い、効果を出している地域もある
・根本的な解決には民間の方の協力が必要不可欠
この記事を読んで、鳥獣被害の現状や発生原因、それらを防ぐ対策について正しく理解してください。